長々と。

PanDaguryuel2004-10-14

 コズミックイラにおける戦争は「国家対国家」の姿を借りた「人種対人種」の戦争であったと思う。ナチュラルは優れた能力を持つコーディネイターを憎み、コーディネイターは「血のヴァレンタイン」事件を起こしたナチュラルを憎んでいた。なるほど戦争を起こすには得心の行く設定だ。
 これは我々の歴史におけるひとつのケースと符合する。1940年代のドイツとロシア(ソ連)だ……ナチスソ連共産主義ユダヤ人の化身と考え、これを打倒することは避けて通れないと考えていた……東西両面に戦線を分けることの危険さを知りつつ対ソ戦を開始したのは、そういう理由から出たものではないのだろうか。加えてヒトラーはスラヴ民族を「劣等人種」として奴隷化することでアーリア人の生存圏を守ろうと考えていた……奴隷であるならどんな残虐行為も許される。イギリス軍捕虜の死亡率がわずか5%であるのに対し、ソ連捕虜の死亡率は58%に上る。ソ連はこれを忘れなかった……戦後捕虜になったドイツ人たちの死亡率は30%以上にもなった。

 話をコズミックイラへと戻す。もしこの戦争が人種同士の殲滅戦であり、それを「リアルに描く」のならば、そのバックグラウンドとして「宣伝(洗脳)活動」を描くべきだった。ナチスには宣伝省という専門の機関があったし、ソ連においても幾多のスローガンが作られては消えていった。
 しかしこうした殲滅戦は、執行者たる軍全体に「敵」に対する明確な殺意を要求する。コーディネイターを新型戦艦に乗せ、あまつさえ身柄を庇うというような事があってはならない。キラ=ヤマトは幸運にも艦内でリンチを喰らうこともなく、命令違反で銃殺されるような事も無かった。
 一方で、「人種対人種」の構図を明確にするための描写は行なわれていた。ユニウスセブン追悼団の船は撃沈され、オペレーション・スピットブレイクにおける大量破壊兵器投入と、その報復。連合軍は核弾頭を撃ち込み、ザフトは「ジェネシス」で都市ひとつを消し去った。
 「一緒に戦火を潜り抜けたことが人種間の軋轢を消し去ったのだ」という見方も出来るが、それでは「未だ軋轢があった頃」の描写が欠けている。「アークエンジェル」のクルー達は誰も彼もがコーディネイターに対する憎しみを持っていない。コーディネイターを明確に憎んでいたのはわずかにナタル=バジルールとフレイ=アルスターだけであった……心情描写がキラとその周辺にのみ限られていたせいで、他のクルーがコーディネイターにどんな感情を持っていたのかはついに描写されなかった。「アークエンジェル」はコーディネイターを殲滅するための軍に所属していながら、その対コーディネイター感情は極めて友好的と言うほかない。
 つまり、この時点で殲滅戦を題材にするのは無理があったのである。「ナチュラルの中のコーディネイター」が主人公として相応しくなくなってしまう……彼には中立国の友人達以外のクルーから有形無形の暴力を受ける事が必然となってしまうからだ。

 ……長々と書いてしまいましたが、読みづらくて申し訳ない。つまり「殲滅戦を前面に押し出さないほうが、ストーリーとしてはスムーズになる」という事が言いたかったのです。

 ちなみに画像はツポレフTu-160ブラックジャック。世界で一番きれいな爆撃機だと思いますね。スタイルは似ててもアメリカのロックウェルB-1Bランサーはちょっとバタ臭い感じ。ブラックジャックの方が一段上だと自分では思ってます。はい。
 ここで不要な豆知識。ソ連&ロシア機の名前はたいていNATO軍によるコードネームなんですね。ミコヤンMiG-29ファルクラムやスホーイSu-27フランカーといった戦闘機はFで始まり、ツポレフTu-16バジャーやTu-95ベア、Tu-160ブラックジャックなどの爆撃機はB。