公国海兵隊よ永遠なれ

 軍人であれば、それがある程度理不尽な命令であっても従わなければならない。
 徴兵された若者ではなく、それが自ら志願した兵であればなおさらだ。

 シーマ=ガラハウ少佐は一年戦争時、海兵隊の一員としてサイド2へ侵攻。そこで大規模な毒ガス攻撃を(本人が知らされていなかったとはいえ)行なってしまった。その後彼女は昇進し、戦争終結後はデラーズ=フリートの一勢力として海兵隊の残存戦力を指揮。幾多の流転の後に戦死している。

 「0083」の作中、アナベル=ガトーやエギーユ=デラーズは彼女……そして海兵隊に対し確実に嫌悪感を抱いている。毒ガス攻撃を行なった部隊の指揮官として。

 僕は「0083」という作品が好きだ。主人公である連邦側のコウ=ウラキにのみ焦点を当てるのではなく、強力なライバル、そして敵方の主人公といっても過言ではないアナベル=ガトーとその周辺を過不足なく描写していく事で全体的なバランスをとり、双方の「正義」のぶつかり合いを演出しているからである。
 「ソロモンの悪夢」と異名をとるエースパイロットに対する恐怖、その技量に対する畏怖、目の前で核弾頭を奪取・発射された屈辱、さらにニナ=パープルトンに対して「自分が優秀である(ガンダムパイロットに相応しい人間である)」と知ってもらいたいと言う純粋な願望。それらが渾然一体となったコウの描写。自らの信じる正義のために戦い続け、最後は絶望的な戦力差の中撤退する友軍(ネオジオン艦隊だったが)を援護するため連邦に戦いを挑んだガトーやノイエン=ビッター、デラーズといったジオン残党兵の描写。

 その中で、上層部の非道な命令を知らされぬまま実行し、その後も日陰者と後ろ指を差され続けながら戦い、ジオンからは獅子身中の虫と忌み嫌われ、連邦からも戦争犯罪人としての扱いは免れ得ない立場に追いやられた悲劇の部隊……公国海兵隊のドラマが、僕としては胸に刺さる。
 欲を言えば、ガトーもシーマに敵愾心を燃やすだけでなく、ある程度の同情を示して欲しかったと言うか……いや、ここで同情できないというのがエリートであるガトーのガトーたる所以なのかもしれないと、そんな事を思う。

 ……いかん、こんな事書いてたらどんどん海兵隊の話が書きたくなってきた。一年戦争中の海兵隊がどれだけ絶望的な状況で戦い抜いたか……第二次大戦の442部隊とか、そんな感じの話になりそうだけど……